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爪切り赤信号無視で危険運転にならないのはザル法

ザル法

 「他者の安全を確保するという、運転者の最も基本的な責務に対して無頓着」――。名古屋市瑞穂区で女児2人が死傷した交通事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)に問われた被告の男(52)は22日、検察側の求刑(禁錮4年6月)を超す禁錮5年の判決を受けた。名古屋地裁の判決は、男の交通ルールへの意識の低さを厳しく批判し、求刑についても、「遺族らの処罰感情が十分に反映されていない」と指摘した。

運転中に爪切り、8・8秒脇見…横断歩道の女児をはねた男に求刑超す禁錮5年、読売新聞オンライン、2022/11/23 11:00
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危険運転は赤信号を「殊更に無視」することが必須

危険運転を定義している法律を見てみるとこう書いてあるのだ。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成二十五年法律第八十六号)

赤信号無視はが該当し、「殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」とされている。そう、殊更に無視することが必要なのだ。

約8・8秒脇見をしていても「殊更に無視」と認定できないから「自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)」となったのだろう。そもそも何秒前から赤信号だったかが求められる、まさにザル法だ。

例えば、平成29年(あ)第927号の判決では「対面信号機(以下「本件信号機」という。)の表示を意に介することなく,本件信号機が赤色を表示していたとしてもこれを無視して進行しようと考え,Aと共謀の上,本件信号機が約32秒前から赤色を表示していたのに,いずれもこれを殊更に無視し」と、明らかに赤信号で、止まる気がないことが必要らしい。

「重大な交通の危険を生じさせる速度」は、比較的緩くても認められているケースがあり、平成17(あ)2035号事件、平成18年3月14日最高裁判所第二小法廷 決定では「時速約20㎞の速度
で自車を運転して同交差点に進入しようとした」とあるうえで、危険運転致傷となっているので要件が割と甘い。とはいえ、この事件においても、赤信号で一旦停止したのに待たずに交差点に進入したとして「赤色信号を殊更に無視」を認定されている。

つまり、交通整理が行われている交差点において、赤信号を明らかに認識できる状況でもそれを無視して交差点に進入した事故でなければ、危険運転ではないらしい。

一般論からして、赤信号を見落としている時点で、運転適格を疑うべきだ。しかし現行法において危険運転は適用できないのだ。

8.8秒のわき見で時速50kmでもダメなら法改正しかない

検察側の冒頭陳述(2022年5月27日)によると、藤川被告は、事故の1分前(午前10時56分)、事故現場から150メートルほど手前の交差点で停車中、スマートフォンを使い、交際相手の女性に「15分遅れる」とメールを送信した。

メール送信後、藤川被告は前方交差点の信号が青であることを確認し、時速50キロで車を走らせ始める。そして、センターコンソールボックスから爪切りを取り出し、足下にあったゴミ箱に爪を捨てた。

被害者側弁護士による被告人質問(2022年9月2日)で、藤川被告は「爪切りをしまい終えた時に衝突した。おそらく手元を見ていたと思うが記憶がない」と証言している。

検察側の冒頭陳述(2022年5月27日)では、ドライブレーコーダーの記録などから藤川被告は少なくとも【8.8秒間】わき見をしていたことが明らかにされた。

単純計算で、時速50キロで車を走らせた藤川被告は、【約120メートル】も前方を確認していなかったことになる。

そして、女子児童2人をはねる【5.8秒前】、信号が赤に変わっていた。

赤信号進入の車にひかれ小3女児死亡 求刑は「禁錮4年6か月」 判決前に…遺族「心の時は止まったまま」悲劇はなぜ起きた、CBCテレビ、2022/11/17 21:31

5.8秒前に赤信号になっていても、8.8秒間のわき見で赤信号を見ていない(?)ので、殊更に無視ではないのだろうか。

ただし、黄色信号は3秒程度あることを考えてみると、わき見をする8.8秒を含めても黄色信号自体は見ている可能性が否定できない。

Q:確認だが、信号を見ないで交差点を通るのは怖くないのか?
藤川被告:怖いですが、爪を片付ける方に意識がいっていた。

Q:どの時点で青信号を見たのか?
藤川被告:私の中では数10メートル手前だと思った。実際と違うが・・・わからない。

Q:118.5メートル手前で信号が青から黄色に変わった。否定するんですか?
藤川被告:いいえ。

赤信号進入の車にひかれ小3女児死亡 求刑は「禁錮4年6か月」 判決前に…遺族「心の時は止まったまま」悲劇はなぜ起きた、CBCテレビ、2022/11/17 21:31

と、被告人質問にあるように、黄色は認識していた可能性か若しくは信号を認識していなかったのだろうか。

しかし現状の法令は「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視」なのだ。信号自体を見落としているだけでこの条文に当てはまらない可能性があるのだ。

ただし一方通行の逆走は、認識の必要がない

先ほどあげたが一方通行に該当する。通行禁止道路となっているがこれには一方通行も含まれる。

通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成二十五年法律第八十六号)

そう。これは通行し、事故が起きる速度で運転してさえいるだけで該当するのだ。赤信号のものと比べると少しこちらの方が厳しいように感じてしまう。むしろ赤信号の条文だけやたらと厳しい。

実際に今年も一方通行の逆走で死亡事故が起き、危険運転致死の疑いで逮捕されるケースはある。

乗用車を運転していたのは豊橋市の51歳の女性で危険運転致死の疑いで逮捕され、その後任意の調べを受けています。
女性は「事故を起こしたことは間違いありませんが、一方通行は気づかなかった」と話しているということです。

逆走で事故相次ぐ交差点だった…マイクロバス衝突事故で14人死傷の現場 自費でガードレール作った人も 愛知・豊橋市、CBCテレビ、2022/10/31 18:11

これは条文として「通行禁止道路を通行している」という事実と、「重大な交通の危険を生じさせる速度」であって、現に死亡事故が起きている等事故がある以上認定されるのだろう。もちろん裁判でどういう判決が出るのかは知る由もないが、一方通行の逆走は厳しい。

しかし、赤信号も同じなような気がしてならない。一方通行の看板を見落とすことは、一切許される余地がない条文なのに、赤信号は見落とすことが許容されているようにさえ見える。

これはおかしいのではないだろうか。

政治家はあらさがしをするぐらいならこういうところの改善をするべきだ

もちろんいろいろな問題に取り組んでいるのだとは思うが、こういったところはすぐに修正するべきだ。なぜやらないのだろうか。

一方通行の逆走と赤信号無視の危険性は、赤信号無視のほうが軽いのだろうか?そんなはずはないように思うのだ。

そもそも自動車免許がある以上、運転することには一定の危険性があるはずなのだ。そういったことを踏まえるのであれば、危険運転に対する条件はいささか厳しすぎるし、危険運転致死傷、過失運転致死傷あたりの量刑は軽すぎるように思うのだ。

日本の裁判所はこういう判例しかしないのだ。そうであるならば国会が問題提起をして法を変えるしかないのではないだろうか。

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ザルな法律、不思議な判例

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