フランスーチュニジア戦のVARの介入が正当であったかが問題となっているようだ。競技規則を確認してみよう。
FIFAワールドカップカタール2022・グループリーグD第3節、チュニジア代表対フランス代表が現地時間11月30日に行われ、フランス代表は0-1の敗戦を喫した。しかし、再開後のゴール取り消し判定が大論争を巻き起こしている。フランス側がFIFAに異議申し立ての準備をしていると、フランスメディア『スポーツ』が報じた。
チュニジアのW杯大金星消える?フランスがFIFAに異議申し立てへ、再開後のゴール取り消しで、フットボールチャンネル、2022/12/1 7:51
競技規則の確認
プレーが再開された後のレビュー
Laws of the Game 22/23 競技規則日本語訳、p.63、公益財団法人日本サッカー協会
プレーが停止後に再開されてしまった場合、主審は、人間違いの場合、もしくは乱暴な行
為、つば吐き、かみつき、または非常に攻撃的な、侮辱的な、下品な行動といった退場を
命じる可能性のある反則のみをレビューし、適切な懲戒の罰則を与えることができる。
この日本語訳文面を見ると、再開されてしまった場合はレビューができないように見える。
今回のケースでは、ゴールの後、キックオフをし試合が再開されたのにもかかわらず、VARが介入したことが争点であるようだ。
IFABのルールも当然ながら日本語訳と同様のことが記載されている。
Reviews after play has restarted
LAWS OF THE GAME 2022/23 Law 5 The Referee, IFAB
If play has stopped and restarted, the referee may only undertake a ‘review’, and take the appropriate disciplinary sanction, for mistaken identity or for a potential sending-off offence relating to violent conduct, spitting, biting or extremely offensive, insulting and/or abusive action(s).
ここだけの文面をみると、できないタイミングでVARを実施したように読めてくる。
VARの実施手順
競技規則には、「VARの実施手順(Video Assistant Referee Protocol)」がまとめられている。
レビューの項目には、以下のように記されている。
◦ プレーがすでに停止している場合、主審は、プレーの再開を遅らせる。
Laws of the Game 22/23 競技規則日本語訳、pp.140-141、公益財団法人日本サッカー協会
◦ 競技規則は一度プレーを再開したならば再開方法(コーナーキック、スローインなど)
の変更を認めていないことから、プレー再開後のレビューは、できない。
◦ プレーが停止され、その後再開された場合であっても、主審が「レビュー」を行い、適
切な懲戒の罰則を与えることができるのは、人間違い、もしくは乱暴な行為、つば吐
き、かみつき、または非常に攻撃的な、侮辱的な、もしくは下品な行動といった退場
を命じる可能性のある反則に限られる。
◦ レビューのプロセスは、できる限り効率的に行われるべきではあるが、早さよりも正
確性が重要視される。このため、また、レビューの対象となる判定や事象が複数生じ
る複雑な状況となる場合もあるため、レビュープロセスに時間的制限は、設けない。
停止しているならば、遅らせ、一度再開したら変更できないからレビューできないとある。ここがおかしいといわれている点だろう。
ただ、ここの再開方法として列挙されているものはコーナーキック、スローインなど。キックオフが含まれるのかが争点といえるかもしれない。
(英語ももちろん一緒)
◦ If play has already stopped, the referee delays the restart
Video Assistant Referee (VAR) protocol、IFAB
◦ The Laws of the Game do not allow restart decisions (corner kicks, throw-ins etc.) to be changed once play has restarted, so they cannot be reviewed
◦ If play has stopped and restarted, the referee may only undertake a ‘review’, and take the appropriate disciplinary sanction, for a case of mistaken identity or for a potential sending-off offence relating to violent conduct, spitting, biting or extremely offensive, insulting and/or abusive action(s)
◦ The review process should be completed as efficiently as possible, but the accuracy of the final decision is more important than speed. For this reason, and because some situations are complex with several reviewable decisions/incidents, there is no maximum time limit for the review process
「プレーを再開」は何を指すのか
第8条は「プレーの開始および再開」についての条文だ。ここに再開は定義されているはずだ。
試合の前半、後半、延長戦の前半、後半の開始、および得点があった後のプレーは、キッ
プレーの開始および再開 Laws of the Game 22/23 競技規則日本語訳、p.81、公益財団法人日本サッカー協会
クオフによって行われる。(直接または間接)フリーキック、ペナルティーキック、スロー
イン、ゴールキックおよびコーナーキックは、その他の再開方法である(第 13 ~ 17 条
参照)。主審がプレーを停止し、この条で定められた上記の再開方法が当てはまらない場
合、ドロップボールで再開する。
ボールがインプレーでないときに反則が起きた場合、プレーの再開方法は、変更しない。
さて、これを見てどうとらえるべきだろうか。
フリーキック、ペナルティキック、スローイン、ゴールキック、コーナーキックは「そのほかの再開方法」とされ、当てはまらない場合はドロップボールで再開する。ここまでは何ら不思議ではない。
「試合の前半、後半、延長戦の前半、後半の開始、および得点があった後のプレーは、キックオフによって行われる。」とあるように、キックオフによって行われるとは書いてあるが、これは再開に該当するのだろうか。
A kick-off starts both halves of a match, both halves of extra time and restarts play after a goal has been scored. Free kicks (direct or indirect), penalty kicks, throw-ins, goal kicks and corner kicks are other restarts (see Laws 13–17). A dropped ball is the restart when the referee stops play and the Law does not require one of the above restarts.
LAWS OF THE GAME 2022/23 Law 8 THE START AND RESTART OF PLAY, IFAB
英文の規約をみると「restarts play after a goal has been scored」とあり、「得点後のプレーを再開」という意であろうからでキックオフも再開の1つではあるように思う。
「プレーの停止」は何か
第9条には「ボールインプレーおよびボールアウトオブプレー」が定義されるが、「グラウンド上または空中で、ボールがゴールラインまたはタッチラインを完全に越えた。」とき、アウトオブプレーになるとされており、第10条「試合結果の決定」の1.得点の規定に「ゴールポストの間とクロスバーの下でボールの全体がゴールラインを越えたとき、ゴールにボールを入れたチームが反則を行っていなければ、1 得点となる。」とあるので、1得点を取る場合は、ボールアウトオブプレーとはなりそうだ。
停止し再開したときは原則VARが介入できないのだから、「プレーの停止」が行われていなければできる可能性はある。ボールアウトオブプレーとなることの項目に「主審がプレーを停止した」とあることから、プレーが停止することと、ボールアウトオブプレーは別物であると考えるべきだろう。
末尾の「ボディーランゲージ、コミュニケーションと笛」という項目にこんな記述がある。
笛
ボディーランゲージ、コミュニケーションと笛 Laws of the Game 22/23 競技規則日本語訳、pp.186-187、公益財団法人日本サッカー協会
次の場合には、笛を吹くことが必要である。
◦ 試合の前半、後半(延長戦の前半、後半)の、または得点後のキックオフのとき。
◦ 次の理由でプレーを停止するとき。
・ フリーキックまたはペナルティーキック
・ 試合の一時的な中断または中止
・ 前半、後半の終了時
◦ 次の場合にプレーを再開するとき。
・ 規定の距離を下げたときのフリーキック
・ ペナルティーキック
◦ 次の理由でプレーが停止された後にプレーを再開するとき。
・警告または退場
・ 負傷者の発生
・ 交代
次の場合、笛を吹く必要はない。
◦ 次の理由でプレーを停止するとき。
・ ゴールキック、コーナーキック、スローイン、得点
◦ 次の場合にプレーを再開するとき。
・ ほとんどのフリーキック、ゴールキック、コーナーキック、スローイン、ドロップ
ボール
笛を吹く必要がないとされるプレーの「得点」は、プレーを停止するときの中に含まれている。これを見るとやはり、キックオフは「プレーが停止し、再開する方法」であるのだろう。
英文の規約を見てみよう。
Whistle
Body language, communication and whistle、IFAB
The whistle is needed to:
◦ start play (first and second half of normal play and extra time), after a goal
◦ stop play:
- for a free kick or penalty kick
- if the match is suspended or abandoned
- at the end of each half
◦ restart play for:
- free kicks when the appropriate distance is required
- penalty kicks
◦ restart play after it has been stopped for a:
- caution or sending-off
- injury
- substitution
The whistle is NOT needed to:
◦ stop play for a clear:
- goal kick, corner kick, throw-in or goal
◦ restart play from:
- most free kicks, and a goal kick, corner kick, throw-in or dropped ball
日本語版と同様に、ゴールの得点は笛を吹く必要のない停止するプレーに分類されている。
ただ「start play (first and second half of normal play and extra time), after a goal」とゴール後再開がstart playに引っ付いているのは気になる。
結論
私は審判員でもないので結局はわからない。
競技規則を見て言えることは「プレーが停止後再開されたときは、人間違い、もしくは乱暴な行為、つば吐き、かみつき、または非常に攻撃的な、侮辱的な、もしくは下品な行動といった退場を命じる可能性のある反則に限りレビューができる」ということだけだろう。
「ボディーランゲージ、コミュニケーションと笛」は、競技規則に付随はしているが「審判員のための実践的ガイドライン」に含まれるものであって規則そのものではない。
個人的には、「VARの再開された後のレビュー」の「プレーが停止後再開したらできない」の定義が弱いようには思う。プレーの停止と再開が何を指すのか具体的にまとめられていないのにも関わらず、それを使用して条件を決めているからややこしく読める。
ルールの意図からすると、今回のケースは認めていないような気がしてならないが、真相はどうなのだろうか。


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